革バカのおやじを知っています。
数年前財布を買い替えたかった私は色々なショップを見て回りましたが、気に入るものがなく、ようやくネット上で見付けた鞄職人と称する人が作った財布を買ってはみたもののとても満足できるものではありませんでした。仕方なくそれを使いながらさらにネットで探していると、あるサイトの一部で少しだけ紹介されている鞄工房が六甲アイランドにあるという情報に出会いました。近いという理由だけですぐにそこを訪れてみると、そこに置かれていた財布は完璧に私が求めているもので、まるで私のためにオーダーメイドされたもののようでした。あまりに嬉しく、そこにいたおやじに話かけるとそのおやじは初対面の私に延々と革の話をするのです。しかしおやじが口にするブランドのほとんどは私にとって初めて聞くものばかり。それもそのはず、話に出てくるブランドは鞄のブランドではなく、革のタンナー等の会社、つまり革そのもののブランドなのでした。
そんなおやじのところにちょくちょく顔を出させてもらうようになって、少しずつ身の回りがおやじの作品で占めるようになっていったのですが、私が行くとおやじは私の靴を見て「いい靴ですね。」と言うのではなく「いい革ですね。」というのです。ある日、購入を検討している車のカタログを私に見せ、どっちがいいと思うかを尋ねてきました。しかし、片方はバリバリのスポーツカー、もう片方は思いっきりファミリービークル。車の種類の違いに唖然としつつ何故この2車が候補になっているかを逆に尋ねると、シートの革で車を選ぼうとするのです。これを革バカと呼ばずに何と呼べばいいのでしょう。
私は印刷物だけではなく情報発信のための様々なメディアに関わる仕事をしています。私は情報バカ・メディアバカでしょうか?
1年以上前から新しい財布を作ってくれるよう頼んでいるのですが、全く手を付けようとしてくれません。最初は忙しくなってきてなかなかたどり着かないんだと思っていましたが、最近になって数年使って艶が出てきた私の財布が引退することを惜しんでいるのではないかと思えるようになってきました。商売より自分の作品が長く愛されて使われることを選ぶ人だと思うのです。
今私が使っている財布は本当に素晴らしいものですが、一つだけ重大な欠陥があります。それは入れていたはずのお金があっという間に消えてなくなることです。これを修理してくれたら私はおやじをバカ呼ばわりしません。神と呼ぶことになるでしょう。
今日おやじに泣かされました。
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