11年

当社社屋に「社長室」という部屋がある。
今から12年程前に完成した現社屋にできたこの部屋を先々代も先代も使っていなかったが、現場を離れもともと営業部員でもなかった私はこの部屋に入らざるを得なかった。
寂しいので部屋のドアは開けっ放しではあるが・・・。
この部屋の片隅に兄貴の骨がある。
先代をまだ半分しか納骨していない。
不同沈下による社屋の傾斜に悩まされていた我々は今世紀に入るとほぼ同時に社屋の改修計画を進めた。
当初は社屋の基礎部分にジャッキを埋め込み、建物の水平を保つ工事をしようとしていたが、そのような改修よりも印刷会社にふさわしい建物を新築する道を主張したのが兄だった。
そうして2002年の6月から半年間印刷はほぼ全て外注に依存し、新社屋建築計画を実行に移したのである。
この事業を見届けた先々代である父は社長を退き、2003年11月に兄が社長に就任した。
ところがその半年後に突然奴はあの世に行ってしまった。
たくさんのものを残してくれたが、中でも大きかったのは返済が始まったばかりの社屋新築のための借入金。
この借入金を完済するまでは成仏させるつもりがなく、10年以上もの間そばに居てもらっていたのだ。
当初この借入金の最終返済日は2015年12月20日だった。
他の運転資金等の借入金は金利等の条件を考慮し、繰り上げて返済したり借り換えしたりしたのだが、この借入金だけはずっとそのまま12年間おいておこうと決めていた。
しかし今年に入り残り1年を切ったことから色々な条件を考えて意地を張らずに少しだけ早めに完済することにした。
先日その手続きを終えた時、何か一つの大きな荷物を置いたような気になり充実感を覚えたと同時に、寂しい気持ちにもなった。
兄貴と一緒に取り組んできたものの中で最も大きいものが終わって、離れてしまったような気になったのだ。
もちろん今取り組んでいるものは全て一連の流れの中にある訳だから、先代までが作り上げてくれたものの延長線上にあり、離れていることなど全く無いのだけれど象徴的なものの一つが終わったことは事実なので寂寥感が少しある。
でも経営者としては借入金が少しでも減ったことを素直に喜ばなければならないし、返済できたことに感謝しなければならない。
これからも設備投資等を積極的に行っていけるよう取り組んでいきたいと思っているが、これらは全て先人たちが築いてくれたものの上に積み上げていくものであることを忘れずにいたい。
たくさんの先輩たちがこの世を去った。
たくさんの先輩たちがあの世から我々を見守っていてくれていることだろう。
感謝の気持ちを新たに、先輩たちとの再会の日をできるだけ先にするよう頑張る。
あれから11年の日にあらためて。
そろそろ成仏させてやることを考えなきゃならないか・・・。

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